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ウェアラブルデバイス開発を成功させるには?

この記事でわかること
  • 装着部位と装着時間から決まる、ウェアラブルデバイス特有の設計条件
  • 医療機器に当たるかどうかの線引きと、健康機器として出すときの表現の注意
  • 体動ノイズ・肌・発熱・スマホ連携・無線規制など、試作後に問題になりやすい論点と支援先の使い分け

ウェアラブルデバイスの開発は、「体のどこに、どれくらいの時間着けるか」を決めるところから始まります。測れるものも、電池の大きさも、肌に触れる素材も、装着部位と装着時間で決まるからです。製品の目的によっては医療機器として扱われ、開発の進め方そのものが変わります。体の動きによるノイズ、汗やかぶれ、発熱、スマホアプリとの連携、体の近くで使う無線機器の規制など、ウェアラブルならではの論点を早い段階で押さえておくと、試作後の手戻りを減らせます。

ウェアラブルデバイスは、センサーデバイスの中でも条件が厳しい製品です。
相手が機械ではなく人の体なので、体格・肌・動き方のばらつきをすべて受け止める設計が必要になります。

  • 装着部位と装着時間が、測定方式・電池・素材の前提を決める
  • 「何をうたうか」で、医療機器になるかどうかが変わる
  • 機器・アプリ・無線規制まで含めて、開発の範囲を最初に見通す

健康管理、作業者の見守り、スポーツ、介護。身につける機器を使った新規事業の相談は増えています。一方で、スマートウォッチが身近になったぶん、「市販品と同じようなものなら作れるだろう」と見積もりを甘くしてしまうケースも少なくありません。

実際には、机の上で動いた試作機を人に着けてもらった途端に、データが乱れる、肌がかぶれる、すぐ外される、といった問題が出てきます。製品のうたい方ひとつで医療機器として扱われ、必要な手続きが大きく変わることもあります。

この記事では、ウェアラブルデバイス開発に特有の判断ポイントを、装着部位、医療機器の線引き、装着性と測定精度、肌と衛生、電源と発熱、スマホアプリとの連携、試作・量産の順に解説します。最後に、開発支援先の種類と使い分けを紹介します。

ウェアラブルデバイス開発は「体のどこに、どれくらいの時間着けるか」から決まる

ウェアラブルデバイスで最初に決めるべきなのは、機能の一覧ではありません。体のどこに着けて、1日に何時間、何日間着け続けてもらうのかです。ここが決まらないと、センサーの方式も、電池の大きさも、肌に触れる素材も選べません。

装着部位によって測れるものと制約が変わる

同じ「心拍を測りたい」という要望でも、手首で測るのか胸で測るのかで、使う方式も設計の難しさも変わります。代表的な装着部位と、設計上の主な制約を整理します。

装着部位 よく使われる測定の例 設計上の主な制約
手首(腕時計・バンド型) 光学式の脈拍、加速度による活動量 腕の動きが大きく、体動ノイズが出やすい。締め付けと着け心地の両立が難しい
胸(ベルト・貼り付け型) 心電、呼吸 電極と肌の接触を保つ必要がある。長時間貼ると肌への負担が大きい
指(リング型) 光学式の脈拍、皮膚温 部品と電池を載せる空間がきわめて小さい。指のサイズ展開が必要
耳(イヤホン型) 脈拍、体温 耳の形の個人差が大きく、フィットさせにくい
頭部(メガネ・ヘルメット型) 映像、視線、頭の動き 重さとそのバランスが着け心地を大きく左右する
衣服型 心電、姿勢 洗濯への耐性、着るたびに電極の位置がずれる
腰・作業着への取り付け 加速度・角速度による転倒や姿勢の検知 作業の邪魔にならない形、落下や衝撃への耐性

表の「よく使われる測定の例」は一例で、同じ部位でも方式はいろいろあります。大事なのは、事業で必要なデータを、ユーザーが無理なく着け続けられる部位で取れるかどうかです。たとえば作業者の見守りなら、腰や作業着に取り付けた加速度・角速度センサーで転倒を検知する方法があります。心拍の厳密な値よりも、転倒にすぐ気づけることのほうが価値がある用途だからです。

装着時間と使われ方で、電池・素材・形の前提が変わる

装着部位と並んで決めておきたいのが、装着時間と使われ方です。

短時間・スポット使用

  • 運動中だけ、測定のときだけ着ける
  • 電池は毎回の充電を前提にできる
  • 多少の重さや締め付けは許容されやすい

長時間・連続使用

  • 睡眠中も含めて24時間、数日間着け続ける
  • 充電のために外す時間がデータの欠損になる
  • 肌への負担、蒸れ、就寝時の違和感が問題になる

連続使用を前提にするなら、「充電のために外している間のデータをどう扱うか」まで、事業の側で決めておくことになります。見守り用途で、充電中に異常があっても気づけないのでは意味がありません。使われ方から逆算すると、必要な電池容量や充電方式が見えてきます。

センサー選定や電池寿命など共通の基礎はセンサーデバイス開発と同じ

ウェアラブルデバイスも、センサーデバイスの一種です。測定要件の決め方、データシートの読み方(精度と分解能の違いなど)、電池寿命の計算、技適の基本、量産時の校正や部品の生産終了への備えは共通しています。これらはセンサーデバイス開発の実務知識をまとめた記事で詳しく解説しています。

以下では、ウェアラブルならではの論点に絞って説明します。

医療機器に当たるかどうかで、開発の進め方が大きく変わる

体の情報を測るウェアラブルデバイスでは、医療機器に当たるかどうかが最初の大きな分かれ道です。医療機器になるかどうかは、使っているセンサーではなく、製品を何のために使うとうたうかで決まります。

医療機器かどうかは「何をうたうか」で決まる

薬機法では、病気の診断・治療・予防に使うこと、または体の構造や機能に影響を与えることを目的とする機器のうち、政令で定めるものを医療機器としています。判断の鍵は「目的」です。

同じ脈拍センサーを使っていても、「日々の健康管理の目安として脈拍を記録する」製品と、「不整脈の兆候を見つける」とうたう製品では扱いが変わります。産業技術総合研究所がまとめたウェアラブル機器開発のガイダンスでも、用途によって医療機器か非該当かが変わる場合があるという点を、実務上の課題として取り上げています。

判断に迷う場合は、自己判断で進めずに相談窓口を使うのが確実です。

  • 機器が医療機器に当たるかどうか:各都道府県の薬務主管課
  • データを分析するアプリやソフトウェアが医療機器(プログラム医療機器)に当たるかどうか:PMDA(医薬品医療機器総合機構)の相談
  • 開発全体の進め方:医療機器開発支援ネットワーク(MEDIC)の相談窓口や伴走コンサル

健康機器として出すときに注意したい表現

医療機器ではない健康機器として販売する場合、今度は広告や製品説明の表現が問題になります。薬機法第68条は、承認や認証を受けていない医療機器について、効能・効果・性能を広告することを禁じています。医療機器に当たらない製品でも、医療機器のような効能・効果をうたえば、この規定に触れるおそれがあります。

健康機器の説明として使いやすい方向

  • 脈拍や歩数を記録する
  • 日々の変化を振り返る
  • 活動量や睡眠時間の目安を知る

医療機器と受け取られやすい方向

  • 病気を見つける、診断する
  • 病気の予防や治療に役立つ
  • 医療機関での検査の代わりになる

上の分け方はあくまで考え方の目安で、最終的な判断は個別の表現と製品の内容によります。見落としやすいのは、製品本体ではなく、Webサイトや営業資料、アプリの画面に書いた一文で問題になることです。事業部門と開発部門で、使ってよい表現と使わない表現を最初に決めておくと、後から製品説明を書き直す手間が省けます。

医療機器として開発する場合に増える作業

医療機器として開発すると決めた場合は、開発の進め方そのものが変わります。

増える作業 内容
クラス分類と手続きの確認 リスクに応じてクラスI〜IVに分かれる。クラスIは届出、クラスIIは認証基準があれば登録認証機関の認証、クラスIII・IVは原則として大臣の承認(PMDAの審査)が必要
品質マネジメントシステムの構築 QMS省令に沿った製造管理・品質管理の体制が必要。QMS省令は2021年の改正で、国際規格ISO 13485に相当する内容になった
肌に触れる部分の生物学的安全性評価 接触する部位と期間に応じて、ISO 10993-1(JIS T 0993-1)に基づいて評価項目を選ぶ
業許可を持つ会社との連携 自社で医療機器の製造販売業などの許可を持たない場合は、許可を持つ会社との役割分担を決める

医療機器にすると、開発の期間も費用も健康機器とは別物になります。まず健康機器として市場に出してデータと実績を集め、その後に医療機器としての開発に進む、という段階を踏む選択肢も考えられます。どちらを選ぶかは事業計画の根幹に関わるので、企画の段階で決めておくべき論点です。

装着性と測定精度|体の動きと肌の状態がデータを乱す

ウェアラブルデバイスの測定精度は、センサーの性能だけでは決まりません。体の動き、肌との接触、着け方のばらつきが、測定値を大きく左右します。机の上の試作機では見えなかった問題が、人に着けた途端に出てくるのはこのためです。

体の動きによるノイズ(体動ノイズ)への対策

代表的な例が、手首型の機器でよく使われる光学式の脈拍測定です。皮膚に光を当てて、血流による反射光の変化から脈拍を求めます。ところが、腕を振ったり手を握ったりすると、その動きによる信号の揺れが脈拍の信号に重なります。生体医工学の学会誌に掲載された研究でも、体の動きによるノイズの周波数帯が脈波と重なることが指摘されています。周波数で単純に分けられないので、除去が難しいのです。

対策としては、加速度センサーで体の動きを同時に測り、その情報を使って脈拍の信号から動きの成分を取り除く方法が研究され、製品にも使われています。つまり、体動ノイズ対策はセンサー1つで完結する話ではありません。複数のセンサーの組み合わせと、信号処理のアルゴリズムまで含めた設計が必要になります。

開発を依頼するときは、「静かに座っているときの精度」だけでなく、「歩いているとき」「作業中」など、実際の使用場面での精度をどう評価するかまで要件に含めてください。

肌との接触を安定させる構造と固定方法

センサーと肌の接触が不安定だと、それ自体がノイズの原因になります。胸に貼る心電計のように電極で測る方式では、なおさらです。

医療向けウェアラブルの受託開発を手がけるNISSHAは、数時間から数日間連続して貼り付ける機器の課題として、乾燥した肌や汗をかいた肌でも剥がれないこと、剥がすときの痛みや赤みを抑えること、ノイズの少ない安定した信号を得る構造を挙げています。しっかり固定するほど測定は安定しますが、肌への負担は増えます。この両立が、ウェアラブルの設計でいちばん悩ましい部分です。

新しい選択肢として、曲げ伸ばしできる基板もあります。村田製作所が開発した医療向けのストレッチャブル基板は、電極のすぐ近くにアンプを置き、シールド層を重ねることで、曲げ伸ばしに伴うノイズや外からのノイズを抑える設計です。体の動きに追従しながら密着を保てるので、貼り付け型の機器で検討する価値があります。

評価は体格・肌質・動き方のばらつきを含めて行う

開発チームのメンバー数人で試して問題がなかった、というだけでは不十分です。実際のユーザーは、体格も、肌の色や質も、汗のかき方も、動き方も違います。

  • 手首の太さや指のサイズが違うと、同じバンドやリングでも密着の具合が変わる
  • 肌の状態(乾燥、汗、体毛など)で、光学式センサーや電極の信号の取れ方が変わる
  • 高齢者、子ども、作業者など、ユーザー層によって動き方や着け方が違う

評価の対象者は、想定するユーザー層に近い人を、ばらつきが出るように選びます。対象者を広げるほど評価の手間は増えますが、量産して販売した後に「一部の人では測れない」と分かるよりは、ずっと安く済みます。

肌に触れる素材と衛生|汗・かぶれ・洗浄への備え

ウェアラブルデバイスは、長時間肌に触れ続ける製品です。かぶれや不快感があれば、どれだけ機能が優れていても使い続けてもらえません。素材と衛生の設計は、使われ続けるかどうかを左右します。

肌に触れる素材の安全性を確かめる

医療機器として開発するなら、前の章で触れた生物学的安全性評価を行います。医療機器でなくても、肌に触れる素材の安全性を確かめる手間は省けません。

身近な例が金属アレルギーです。汗などで金属がわずかに溶け出すことが原因とされ、ニッケルは報告の多い金属として知られています。腕時計では、本体の素材に気を配っていても、常に肌に触れる裏蓋の素材が見落とされやすいと指摘されています。ウェアラブルデバイスでも、センサー窓の周りの金属部品、充電用の端子、ベルトの留め具など、肌に触れる部品をすべて洗い出して素材を確認してください。

粘着剤で貼り付ける機器では、粘着剤そのものの肌への影響に加えて、剥がすときの負担も評価の対象になります。

汗・皮脂・水への対策

汗や皮脂は、肌トラブルの原因になるだけでなく、機器の故障の原因にもなります。

  • 汗が充電端子やボタンのすき間から入り込み、内部の部品を傷める
  • 皮脂や汚れがセンサーの窓に付き、光学式センサーの信号が弱くなる
  • 汗で湿った状態が続き、ベルトや肌に触れる部分が不衛生になる

防水の等級(IPコード)を満たしていても、汗は真水ではありません。塩分や皮脂を含んだ汗に長期間さらされたときの影響は、防水の等級とは別に評価します。ユーザーが機器やベルトをどうやって洗うのか、洗ってよいのかも、取扱説明の段階ではなく設計の段階で決めておきます。

使い捨てにするか、繰り返し使うか

衛生面の要求が厳しい用途では、肌に触れる部分を使い捨てにする選択肢があります。

使い捨て(または交換式)

  • 衛生面の不安が少ない
  • 1個あたりの原価を下げる工夫が必要
  • 交換部品の継続販売が事業モデルになる

繰り返し使用

  • 1台あたりの価格を上げやすい
  • 洗浄・消毒への耐性が必要
  • 劣化した部品の交換方法を考える必要がある

電子回路の本体は繰り返し使い、肌に触れる電極や粘着シートだけを交換する、という中間の構成もあります。印刷技術で回路を作るプリンテッドエレクトロニクスは、薄く軽い部品を安く作れるため、使い捨ての部品に使われることがあります。どこまでを使い捨てにするかは、原価と事業モデルに直結する判断です。

小型化と電源|基板・電池・充電・発熱の制約

ウェアラブルデバイスは、小さく軽いほど着けやすくなります。一方で、小さくするほど電池は小さくなり、熱は逃げにくくなり、部品を載せる場所もなくなります。小型化は、ほかの要件とのトレードオフの連続です。

柔らかい基板(フレキシブル・ストレッチャブル)の使いどころ

一般的な電子機器は硬い基板を使います。ウェアラブルでは、体の曲面に沿わせたり、狭い筐体の中で折り曲げて収めたりするために、柔らかい基板が選ばれることがあります。

基板の種類 特徴 向いている使い方
硬い基板(リジッド) 一般的で、部品の実装や量産のノウハウが多い 腕時計型など、硬い筐体に収める機器の本体
フレキシブル基板(FPC) 薄く、曲げられる 筐体の中で折り曲げて配線する、曲面に沿わせる
ストレッチャブル基板 伸び縮みしても配線が切れない。村田製作所の製品では伸長率60%(条件による) 体表に貼り付けて、体の動きに追従させたい機器
プリンテッドエレクトロニクス 印刷で回路を作る。薄く軽く、大面積にも対応 使い捨ての電極、衣服型など大きな面積のセンサー

柔らかい基板は着け心地を大きく改善できますが、対応できる製造先が限られ、硬い基板より検討事項が増えます。村田製作所の例のように、硬い基板やFPCと組み合わせて、柔らかさが必要な部分にだけ使う構成も可能です。基板の選択は、試作の段階から量産の製造先と相談しておくと安心です。

電池の容量と、大きさ・重さのトレードオフ

電池は、ウェアラブルデバイスの中でも大きく重い部品の一つです。容量を増やせば充電の回数は減りますが、機器は大きく重くなります。リング型のように空間が限られる機器では、電池の大きさがそのまま製品の大きさを決めることもあります。

だからこそ、消費電力を下げる設計が重要になります。測定の頻度を必要最小限にする、データを機器側でまとめてから送る、待機中の電流を徹底的に下げる、といった工夫です。電池寿命の見積もり方は、センサーデバイス開発と同じ考え方で計算できます。

充電方式と防水を両立させる

充電方式は、着け心地と防水の両方に関わります。

  • 端子を露出させる接点充電は、構造が簡単な反面、汗や水が入り込む経路になりやすい
  • 非接触(ワイヤレス)充電は端子をなくせるので防水には有利だが、部品と費用が増え、充電の効率も考える必要がある
  • 専用の充電台やケーブルを使う場合、紛失したときの入手方法も含めて考える必要がある

連続して着けてもらう製品ほど、充電の手間は使われなくなる原因になります。「毎日外して充電してもらえるか」は、ユーザー調査の段階で確かめておきたい点です。

肌に触れる機器は発熱に注意する

ウェアラブルデバイスで見落とされやすいのが発熱です。充電中や、無線通信・処理を続けているときに、機器は温かくなります。問題は、その熱が長時間同じ場所の肌に伝わり続けることです。

製品評価技術基盤機構(NITE)などは、比較的低い温度でも長時間触れていると「低温やけど」になると注意を呼びかけています。44℃では3〜4時間、46℃では30分〜1時間、50℃では2〜3分で起こるとされています。暖房器具のように熱いと感じない温度でも、睡眠中など長時間着けていると起こりうるということです。

医療機器の安全規格であるIEC 60601-1では、熱を与えることが目的ではない部分が10分以上肌に触れる場合の表面温度の上限を43℃としています。医療機器でない製品でも、肌に触れる面の温度を充電中・通信中の最悪の条件で測り、低温やけどの目安から十分に余裕を持たせてください。

スマホアプリとの連携|機器側とアプリ側の役割分担

多くのウェアラブルデバイスは、BLE(Bluetooth Low Energy)でスマートフォンとつながり、アプリでデータを表示します。機器とアプリの役割分担をあいまいにしたまま開発を始めると、データの欠損や電池の減りの速さとして問題が表れます。

機器側で処理すること、アプリ側に任せること

機器側に持たせたいこと

  • 測定と、体動ノイズの除去などの基本的な信号処理
  • スマホとつながっていない間のデータの保存
  • 転倒検知など、すぐに知らせる必要がある判定

アプリ・クラウドに任せやすいこと

  • グラフ表示や長期間の傾向の分析
  • 判定のしかたの見直し(後から変えやすい)
  • 家族や管理者へのデータの共有

特に大事なのが、スマホとつながっていない間もデータを機器側に保存しておき、つながったときにまとめて送る仕組みです。ユーザーがスマホを置いて出かける、アプリが止まる、電波が届かない、といった状況は日常的に起こります。機器側にどれだけのデータを保存できるかはメモリの容量と電池に関わるので、後から増やすのは困難です。

スマホのOSの制約を前提に設計する

スマホのアプリは、画面に表示されていない間(バックグラウンド)は動きが制限されます。

  • iOSでは、Bluetoothのバックグラウンド処理を宣言していないアプリは、バックグラウンドに移るとすぐに停止状態になり、Bluetoothの処理ができなくなる。宣言していても、アプリが起こされるのは特定のBluetoothのイベントのときに限られる
  • Androidでは、電池を節約するための省電力モード(Doze)があり、常駐させる仕組み(フォアグラウンドサービス)を使っても制限を完全には避けられない

つまり、「アプリが常に動いていて、機器からのデータをリアルタイムに受け取り続ける」前提は成り立ちません。自動で再接続する、機器側にデータをためておく、欠けたデータを後から取りに行く、といった仕組みを、機器とアプリの両方で設計しておきます。機器の開発とアプリの開発を別の会社に頼む場合、ここが最もずれやすい部分です。

健康データの扱いとセキュリティ

ウェアラブルデバイスで集めるデータは、個人情報です。総務省の検討会の整理では、医療機関とは関係なく本人が測った歩数、体温、血圧、脈拍、心拍数、睡眠時間などのデータは、個人情報保護法の「要配慮個人情報」には当たらない健康分野の個人情報とされています。一方、医師による健康診断の結果や病歴は要配慮個人情報です。取得にも第三者への提供にも原則として本人の事前の同意がいり、本人が拒否しない限り提供できる「オプトアウト」の仕組みは使えません。

医療機関と連携して健診結果と組み合わせるサービスなどを考えているなら、どのデータが要配慮個人情報に当たるのかを、企画の段階で整理しておきましょう。セキュリティについては、日本のIoT製品向けラベリング制度(JC-STAR)や、EUの無線機器指令のサイバーセキュリティ要件など、機器側に求められる対策も増えています。

ハードとアプリを別の会社に頼むときに決めておくこと

機器の開発はハードウェアの受託開発会社に、アプリはアプリ開発会社に、と分けて頼むことはよくあります。その場合、次の点は発注する側が主導して決めてください。どちらの会社も、相手の領域までは決められないからです。

決めておくこと 決めないと起きること
BLEの通信仕様(データの形式・送る頻度) 両社が別々に仕様を想定し、つないだときに動かない
接続が切れたときの再接続とデータの再送 データの欠損がどちらの責任か分からなくなる
機器のファームウェア更新の方法 アプリ経由で更新できず、不具合を直せない
試験の分担と、対応するスマホの機種・OSの範囲 特定の機種でだけ起きる不具合が見つからない
不具合が起きたときの切り分け方法 「機器の問題」「アプリの問題」と押し付け合いになる

通信仕様は、どちらか一方が作るのではなく、両社と発注側の三者で合意した文書にしておくのが基本です。ハードとアプリを一括で請け負える会社に頼めばこの調整は減りますが、その場合もどちらの分野が得意な会社なのかは確認しておくべきです。

ウェアラブルの試作・評価・量産で気をつけること

ウェアラブルデバイスの試作・評価では、機能が動くかどうかに加えて、人に着けて使い続けたときに壊れないか、規制に適合しているかまで確かめます。

装着試験と耐久試験で確かめること

一般的な電子機器の環境試験に加えて、ウェアラブルでは次のような評価を計画に入れておきます。

  • 装着試験:想定するユーザーに近い人に、実際の使用時間だけ着けてもらい、着け心地、肌の状態、データの取れ方を確かめる
  • 汗への耐性:汗を想定した液体にさらしたときの、端子の腐食や内部への浸入を確かめる
  • 曲げ・ねじれへの耐性:ベルトや柔らかい基板の部分を繰り返し曲げても、配線が切れないか確かめる
  • 落下・衝撃:着けたままぶつける、外したときに落とす、といった場面を想定する
  • 発熱:充電中・通信中の最悪の条件で、肌に触れる面の温度を測る

体の近くで使う無線機器の規制(技適・SAR)

無線を使う機器には、技適(電波法の技術基準への適合)が求められます。認証済みの無線モジュールを改造せずに組み込めば、基本的に製品として改めて認証を取る必要はありません。ここまではセンサーデバイスと同じです。

ウェアラブルで追加で確認が必要なのが、SAR(比吸収率)の規制です。SARは、体に吸収される電波のエネルギーの量を表します。2014年4月から、頭部以外の体の近く(20cm以内)で使う携帯電話などの無線機器について、SARを2W/kg(手足は4W/kg)以下にすることが義務づけられています。

通信方式 SARの扱い
BLE・Wi-Fiのみ 2.4GHz帯・5GHz帯の小電力データ通信は、単体ではSAR規制の対象外
LTE-Mなどの携帯電話回線を内蔵 SAR規制の対象。同じ筐体にBLEやWi-Fiもあれば、それも含めて測る

注意したいのは、携帯電話回線の組込モジュールを使う場合です。組込モジュールは、どんな筐体に組み込まれるか分からないため、モジュール単体ではSARを含めた認証を受けられません。そのため、体の近くで使う機器に組み込むなら、その機器としてSARを含めた認証を新たに取ることになります(審査の一部は省略できる場合があります)。スマホを介さずに単体で通信する見守り機器などを考えているなら、SARの試験と認証の費用・期間を、開発計画の初めから見込んでおいてください。

バンドや外装のサイズ展開と量産

ウェアラブルデバイスでは、体に合わせるためのサイズ展開が量産の難しさにつながります。リング型なら指のサイズごとに筐体が必要になり、それぞれに金型と在庫が発生します。バンド型でも、ベルトの長さや素材の種類を増やすほど、部品の種類と在庫管理の手間は増えていきます。

サイズ展開をいくつにするかは、着け心地と原価のバランスで決まります。本体は1種類にしてベルトなどの外装で調整する、といった設計の工夫で、量産時の負担を抑えられることがあります。量産の製造先と早い段階で相談しておきたい論点です。

ウェアラブルデバイスの開発支援先の種類と使い分け

ウェアラブルデバイスの開発には、電子回路、機構、素材、アプリ、医療規制と、多くの専門分野が関わります。自社の製品が医療機器になるのか、アプリまで含めてどこに頼むのかによって、選ぶべき支援先が変わります。

支援先ごとの得意分野

支援先 得意なこと 確認しておきたいこと
ハードウェアの受託開発会社 回路・機構・ファームウェアの設計、試作。アプリやクラウドまで一括で対応する会社もある ウェアラブルの開発実績と、量産まで対応できるか
医療機器の受託開発・製造会社 医療機器としての設計・製造、品質マネジメントシステム、承認申請の支援 ISO 13485などの認証や医療機器の業許可の有無
アプリ開発会社 スマホアプリ、クラウド、データの表示・分析 BLE機器と連携するアプリの開発経験
素材・基板・部品メーカー 柔らかい基板、電極、粘着材などの提案とカスタム設計 試作から量産まで同じ条件で供給できるか
公的な相談窓口 医療機器に当たるかどうかの相談(都道府県の薬務主管課、PMDA)、開発の伴走支援(MEDIC) 相談の目的をはっきりさせてから利用する
製品開発コンサル 要件の整理、工程全体の計画、工法やメーカーの選定、量産に向けた調整 設計作業そのものは外部の開発会社やメーカーと組んで進める

工程別に、どの支援先に相談するか

工程 主な相談先 相談する内容
企画 製品開発コンサル、公的な相談窓口 装着部位・装着時間の整理、医療機器に当たるかどうか、うたう内容
PoC(概念実証) 受託開発会社、部品メーカー 測りたいものが、実際の装着状態で測れるかの検証
試作・評価 受託開発会社、アプリ開発会社、素材・基板メーカー 機器とアプリの設計、装着試験、耐久試験、SARを含む認証の準備
量産 受託開発・製造会社(医療機器なら医療機器の製造会社) サイズ展開、検査、部品調達、生産ラインの立ち上げ

ウェアラブルでは、機器、アプリ、素材と、支援先が分かれやすいのが特徴です。支援先が増えるほど、全体の仕様と日程をまとめる役割が重要になります。社内にその役割を担える人がいない場合は、全体の調整から支援できる相手を探すのが近道です。

相談前にまとめておくと話が早い資料

準備するもの 役立つ理由
想定ユーザーと使用場面 装着部位・装着時間・求められる耐久性が決まる
製品でうたいたいこと 医療機器に当たるかどうかの判断材料になる
測りたいデータと、その使い道 必要な精度と、機器側・アプリ側の分担が決まる
参考にしている市販品 大きさ、重さ、価格、着け心地の目安になる
目標価格と販売数量 素材や基板の選び方、サイズ展開の数の前提になる
スマホとの連携の有無と、単体で通信するか アプリ開発の範囲と、SARの対応の要否が分かる

こんな状況なら、早めに外部へ相談を

医療機器に当たるかどうか判断がつかない。試作機を人に着けてもらったらデータが安定しない。ハードとアプリを別々の会社に頼んだら、つなぎ込みで止まってしまった。こうした状況は、ウェアラブル開発で繰り返し起きる典型的なつまずきです。設計が固まる前に第三者の視点を入れると、手戻りを小さく抑えられます。

ウェアラブルデバイス開発は、
量産まで見据えた専門家と進めるのが近道

ウェアラブルデバイスの開発では、機能が動くかどうかだけでなく、医療機器としての扱い、着け心地と測定精度、肌への安全性、アプリとの連携、無線の規制、サイズ展開を含めた量産までを見据えて要件を決める必要があります。

トヨタのモノづくり支援サービスでは、製品化確率を上げるための支援として、要件定義の明確化や、メーカーと同時に要件を固める取り組み、QCDの観点からの工法・メーカー提案などを行っています。

  • 作りたいウェアラブルのイメージはあるが、要件に落とせていない
  • ハード・アプリ・素材の支援先をどう組み合わせればよいか分からない
  • 試作後の量産コストやサイズ展開が見えていない

まとめ:ウェアラブル開発は「人の体」を前提にした要件から逆算する

ウェアラブルデバイスは、人の体に着けて使い続けてもらう製品です。装着部位と装着時間、製品でうたう内容、肌への影響、発熱、スマホとの連携、体の近くで使う無線の規制。どれも、設計が進んでから変えると大きな手戻りになる論点です。

「机の上で動く」ではなく「いろいろな人が、毎日着け続けられる」を基準に要件を決める。これが、ウェアラブル開発を製品化まで進めるための出発点です。