スマート家電の開発は、ハードウェア単体の性能ではなく、ネットワーク経由で提供する価値と、デバイス・アプリ・クラウドを含めたユーザー体験を設計することが成功の前提となります。また、通信規格(Wi-FiやBluetoothなど)の特徴やIoTセキュリティ対策、技適マークなどの法的規制の基本についても把握しておくことが重要です。さらに、フェーズごとに外部開発支援を使い分ける方法や、相談をスムーズに進めるために準備する資料についても解説しています。
スマート家電は、単に「ネットワークにつながる家電」ではありません。センサーやアプリ、クラウド、音声アシスタントなどを組み合わせることによって、ユーザーの生活の負担を減らし、省エネや見守りなど新たな価値を提供する製品です。
スマート家電市場の拡大とIoT技術の進展により、これまでは独立して機能していた家電製品が、インターネットとつながる「スマート家電」として進化を遂げています。このスマート家電は、単にネットワークにつながるだけではなく、さまざまな技術を組み合わせることによって、利用者の生活の負担を軽減するとともに、省エネや快適性、見守りなど、新たな価値を提供できます。
しかし、スマート家電の開発を行うにあたっては、通信規格の選定や技適マークなどの法規制への対応、IoTセキュリティ、ノイズや発熱への対策、アプリの使いやすさ、クラウド運用、量産時の品質管理といったように、従来使われてきた家電の開発時にはなかった数多くの課題を解決していく必要があります。
本記事では、スマート家電の開発や制作に取り組む企業や、外部の開発支援を検討している企業に向けて、製品の企画から量産までに必要となる論点の整理を行い、開発支援を効果的に活用するための考え方について解説していきます。
スマート家電の開発を行う上では、「機能の詰め込み」に終始してしまうことがあります。しかし、製品単体の機能のみに目を向けるのではなく、ユーザー体験(UX)を起点としたサービス設計を行っていくことが、開発成功につながる第1歩であるといえます。そこでここでは、スマート家電の企画について考える際に押さえておきたいポイントについてまとめています。
スマート家電の企画を行う上で非常に重要なのは、インターネットに家電を接続して、具体的にどのような価値をユーザーに提供するのかという点をはっきりと定義することです。スマート家電に求められているのは単に遠隔操作ができることではありません。ネットワークにつながることにより、下記のようにさまざまな価値の提供が可能になります。
| 価値の種類 | 具体例 | 重要な設計論点 |
|---|---|---|
| 利便性 | 外出先からの操作、予約、状態確認 | 操作までのステップ数、通知の適切さ |
| 省エネ | 使用状況に応じた運転制御、電力見える化 | センサー精度、制御ロジック、電気代の説明 |
| 快適性 | 室温・湿度・在宅状況に応じた自動運転 | 体感のばらつき、誤作動防止、設定の分かりやすさ |
| 見守り・安全 | 高齢者の活動量、異常検知、警報通知 | プライバシー、誤報、緊急時の対応設計 |
| 予防保全 | フィルター交換時期、故障前兆の通知 | 故障予測の精度、部品供給、保守体制 |
| サービス連携 | 音声操作、カレンダー、電力会社、防災情報との連携 | API、認証、障害時の挙動 |
たとえばスマートエアコンの場合、「離れた場所から電源を入れる」ことそのものが目的ではなく、「暑い夏の日、帰宅前に部屋を適温にする」「在宅状況に応じて無駄な運転を減らす」といったものを提供することが目的です。
このように、スマート家電の企画について考える段階では、「誰が、どの場面で、何を不便に感じているのか」「その不便をどのように減らしていくのか」を具体的に定義します。そして、「遠隔操作のみで十分か」「自動化すべきなのか」「通知は必要か」について検討し、操作を増やしすぎない設計にすることが求められます。
スマート家電の価値は、ハードウェアとしての機器そのもののみで完結するわけではありません。機器本体は、あくまで「データを収集し、物理的なアクションを起こす」ための端末であり、それを支えているスマートフォンアプリやクラウドシステムと一体になったサービス設計を行うことが大切です。
デザイナーとエンジニアがチームの垣根を越え、ユーザーが持つニーズを満たすUI/UXデザインを構築することが、製品価値の向上に直結するといえます。たとえば、アプリの初期設定(ペアリング)について複雑な操作が必要であれば、ユーザーはその時点で離脱します。
そのため、Wi-Fi設定を簡略化する、直感的な操作パネルの設計を行う、クラウドを介してタイムリーにプッシュ通知を行うといったように、ユーザーが製品を箱から出して使い続けるまでの全てのプロセスを、ひとつのサービスとして設計・検証することが大切です。
スマート家電をインターネットや他の機器と接続を行うには、適切な通信規格の選定に加えて、強固なセキュリティ対策、さらに日本の法規制への対応が欠かせません。ここでは、製品の安全と信頼性の根幹を担う、通信技術とセキュリティについてまとめました。
通信規格は、「何を、どこで、どの頻度で、どの程度のデータ量を送るか」により選択します。全ての製品にWi-Fiが最も適しているとは限らず、用途に合わせて複数の通信方式を組み合わせるケースも見られます。それぞれの通信規格の特徴を把握した上で、選定を行うことが求められます。
| 通信規格 | 主な用途 | 長所 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| Wi-Fi | クラウド連携、映像、大容量データ、アプリ操作 | 家庭内ネットワークを利用でき、通信速度が高い | 消費電力、初期設定、ルーター環境差、セキュリティ設定 |
| Bluetooth / BLE | スマホとの近距離接続、センサー、初期設定 | 低消費電力、スマホとの親和性 | 通信距離が短い、クラウド直結には中継が必要 |
| Zigbee / Thread | 照明、センサー、スマートホーム機器 | 低消費電力、メッシュ構成に向く | ハブや対応エコシステムの設計が必要 |
| Wi-SUN | スマートメーター関連、低速度・長距離通信 | 長距離・低消費電力 | 用途・地域・対応機器の制約 |
| LTE-M等 | 屋外設置、見守り、車載、緊急通報 | 基地局経由で広域通信が可能 | 通信費、SIM管理、電波環境、法規制 |
上記の通り、現在はさまざまな通信規格が用いられています。
たとえば多くの人に馴染みがあると考えられるWi-Fiはクラウドやアプリとの連携に多く使用されていますが、消費電力が大きいことから電源供給が必須となります。また、スマートロックや小型のセンサーなど電池駆動による長時間の動作が求められる機器であれば、消費電力が少ないBluetooth Low Energy(BLE)が向いています。ZigbeeやThreadは、照明やセンサーなど多数の低消費電力で動作する機器を扱うスマートホームに適していますが、ハブやルーター、エコシステムとの互換性を設計に含めて考える必要があります。
通信規格の選定を行う際には、通信速度だけで考えるのではなく、消費電力や到達距離、同時接続数、応答速度、初期設定の手間、障害時の挙動、コストなどを比較することがポイントとなります。
スマート家電などの各種IoT機器は、不用意にネットワークに直接接続させるとサイバー攻撃の標的となるリスクが増してしまいます。家庭用のWi-Fiルーターを経由してマルウェアに感染し、DDoS攻撃の踏み台にされる、カメラの映像などの情報が流出してしまうといった危険性もゼロではありません。
このような状況を防ぐには、出荷時のデフォルトパスワードを廃止して個別パスワードの割り当てを行う、通信内容のエンドツーエンド暗号化、定期的なファームウェアのOTA(Over The Air)アップデート機能を搭載するなどの対策が必要となります。また家電は非常に長い期間使われることもあるように、製品寿命が長い点も特徴のひとつです。この点から、長期にわたる脆弱性情報の収集や修正プログラムの提供方法、サポートが終了した際の取り扱い、利用者への周知方法まで決めておくことが求められます。
スマート家電は非常に便利で快適な生活を実現するためのツールではあるものの、セキュリティに不安を感じるような製品である場合、ユーザーから選ばれるのは難しくなってしまうため、十分な対策を行うことが必要です。
日本国内においてWi-FiやBluetoothなどの電波を発する機器を販売・使用する場合には、電波法に基づく「技術基準適合証明(技適)」を取得することが法律で義務付けられています。スマート家電などIoT機器にはこの「技適マーク」を表示する必要があり、もし技適を取得していない場合には電波法違反として処罰の対象となります。大手のECサイトなどにおいても、技適マークのない無線機器の販売は厳しく制限されています。
しかし自社で通信モジュールの新規設計を行う場合には高額な試験費用と期間が必要となります。そのため、すでに技適マークを取得済みの「認証済み通信モジュール」を製品に組み込む、という手法をとることによって、開発にかかるコストとリードタイムを大幅に削減できます。
さらに、家電として販売を行う場合には「電気用品安全法(PSE:Product Safety of Electrical Appliance & Materials)」へ対応することも重要です。経済産業省では、一般家庭や商店、事務所などにおいて使用される電気製品のうち、政令で定められたものを「電気用品」として、技術基準に適合していることを示すための「PSEマーク」の表示を求めています。特に障害発生のおそれがあるとされる「特定電気用品」については、登録検査機関での検査が義務付けられています。
このように、スマート家電の開発においては技適の取得やPSEへの対応などについても設計初期から整理しておくことが大切です。
既存の白物家電に対し、単に通信モジュールを後付けするだけでは、スマート家電のハードウェア開発は成功しません。開発プロジェクトを成功につなげるには、ノイズや発熱、省電力化といったように、従来の家電とは異なるさまざまな課題を解決していく必要があります。また、見える場所に置くことになる製品は特に、デザイン性も重視される、という点もポイントになってきます。
家電にWi-FiやBluetoothなどの通信モジュールを組み込む際には、「電磁ノイズ」と「発熱」が技術的な壁となります。電源回路におけるスイッチング動作に伴って発生するノイズや、モーター駆動部から発生するノイズが通信アンテナに干渉することによって、通信速度の低下や接続切れにつながります。さらに、通信モジュールそのものが高周波の電波を発しているため、他のマイコンやセンサーの動作に対して影響を与えるというリスクも考えられます。このような状況を防ぐために、基板上のアンテナ配置を最適化や、高周波ノイズ対策部品の使用といった対策が必要となります。
さらに、小型化された筐体内で通信モジュールやプロセッサがフル稼働すると排熱が追いつかず、熱暴走によるシステムダウンや筐体表面温度の上昇につながってしまうことから、放熱シートやヒートシンクなどを採用した、熱設計が欠かせません。
スマート家電は、リビングルームや寝室といったように、ユーザーが生活する空間に常に設置される前提の製品が多い点が特徴のひとつです。そのため、工業製品を思わせる無骨な見た目や、過度に存在感を主張するデザインはユーザーに敬遠されがちであることから、ケーブルの露出はできる限り抑え、インテリアのトーンに調和する、洗練されたデザインが求められます。
特に照明やスピーカー、空気清浄機、見守りカメラ、センサーなどは、生活動線の中に設置されることになるため、「生活空間に置き続けることができるか」という観点が重要です。製品の機能ももちろんですが、見た目や大きさ、色、質感、設置方法などがユーザに選ばれるかどうかに大きく関わってきます。
下記では、想定される設置環境と求められる要件に加え、設計上での工夫についてまとめています。
| 設置環境 | 求められる要件 | 設計上の工夫 |
|---|---|---|
| リビング | 静かさ、デザイン、清掃性 | 筐体の質感、運転音、目立ちにくい表示 |
| 寝室 | 低騒音、暗所での視認性、夜間モード | 表示灯の調光、静音設計、自動消灯 |
| キッチン | 耐熱・耐湿・油汚れ対策 | 防滴、拭き取りやすい表面、部品の耐食性 |
| 玄関・屋外の近く | 耐候性、防塵、防犯 | 防水等級、温度範囲、耐紫外線、固定方法 |
| 高齢者世帯など | 操作の分かりやすさ、安全性 | 大きな表示、物理ボタン、音声案内、誤操作防止 |
「美しい」「洗練されている」「可愛らしい」といった、プラスの印象を与えるデザインを持つことに加えて、設置や清掃、フィルター交換、充電、配線、修理のしやすさといった部分についても検討することで、よりユーザーから選ばれやすくなることが期待できます。
また最近のスマート家電では、多くの製品においてアプリを使用した操作ができるようになっています。ただしアプリでの操作が可能だからといって物理ボタンをなくすのではなく、緊急時やアプリを使用していない高齢者、来訪者も使用できるように物理操作を残す設計についても検討することが必要です。
バッテリーで駆動するセンサー類やスマートリモコンでは、「いかに電池交換や充電の頻度を下げるか」が顧客満足度に直結するため非常に重要なポイントであるといえます。たとえば、通信を行っている時以外はシステムをスリープ状態に移行させることで、不要な消費電力をできる限り抑えるといった制御が必要になります。すぐに電池交換が必要になってしまう製品や、充電を頻繁に行わなければならない製品の場合には、たとえ一度購入してもらえたとしても満足度が低くなってしまい、買い替えのきっかけになることも考えられます。
また常に給電される大型の家電の場合も、待機電力の削減が求められます。そのため、「ユーザーの操作に即座に反応すること」「徹底した省電力化」という相反する要件のトレードオフについて、ハードウェア回路とソフトウェア制御の両面からアプローチを行っていくことが、安定した稼働を支える鍵であるといえます。
| 要件 | 高めたい場合 | トレードオフ |
|---|---|---|
| 応答速度 | 常時通信、高頻度センシング | 消費電力・発熱の増加 |
| 電池寿命 | 間欠動作、スリープ設計 | 通知遅延、検知漏れの可能性 |
| 通信安定性 | 再送、強い電波出力 | 消費電力、干渉 |
| セキュリティ | 常時監視、頻繁な認証 | 処理負荷、電池消耗 |
| 価格競争力 | 低コスト部品 | 性能、耐久性、保守性の低下 |
スマート家電におけるユーザー体験は、アプリやクラウドの設計品質に大きく左右されます。もし洗練されたハードウェアを提供できたとしても、ソフトウェアや専用アプリ、クラウドインフラの設計品質が低いと、ユーザー体験の質が著しく損なわれてしまうことになります。
そこでここでは、専用アプリのUI/UX設計やクラウドインフラ、スマートスピーカー(音声アシスタント)や外部APIとの連携といった点についてまとめています。
スマート家電の主な操作インターフェースとなるのが、スマートフォンアプリです。そのため、提供されるアプリは年齢層やITリテラシーを問わず、誰もが迷わず操作できる直感的なUI(ユーザーインターフェース)であることが求められます。初回設定や日常操作、異常の通知、履歴確認などさまざまな場面ごとに、利用者が迷わず操作できる設計が必要となります。
たとえば初回設定で行うWi-Fi接続(ペアリング)でつまずいてしまうユーザーが多いため、接続手順を解説したアニメーションを提供したり、失敗してしまった場合にユーザー自身で対応ができるように具体的な解決策を提示したりするなどの工夫が求められます。
また高齢者や初めてスマート家電を使用する人向けに大きな文字や音声案内、簡易モードを用意することに加えて、物理ボタンを用意するといった対策も有効であると考えられます。
膨大な数のスマート家電から送信される、ステータスデータやセンサー情報をリアルタイムで処理するには、堅牢で拡張可能なクラウドインフラの構築が必要です。たとえば、AWS(Amazon Web Services)やGCP(Google Cloud Platform)が提供するIoT向けのマネージドサービスの活用により、デバイスとの安全な双方向通信に加え、大容量データを蓄積するための基盤を素早く構築することが可能となります。
また、近年では端末自体がその場で学習や判断を行う「DLoT(分散型IoT)」やエッジAIに関する技術の進展も見られ、ネットワークへの負荷を軽減しつつスマート家電の応答速度を高めるためのアーキテクチャの導入も進められています。
スマートスピーカー(音声アシスタント)との連携を行うことで、「電気をつけて」「テレビを消して」「エアコンを26度に設定して」といったようにさまざまな操作を行えるようになりますので、スマート家電の利便性を飛躍的に高められます。たとえば料理中や荷物を持っており手が塞がっているときや、リモコンが遠くにありすぐに取りに行けない場合などにも家電の操作ができるというのは非常に便利です。このように、「声で家電を操作できる」という体験は、スマート家電市場にはなくてはならない要件であるといえます。
これらを実現するには、それぞれのプラットフォームが提供している外部API仕様や、認証プロセスに準拠したクラウド側の開発環境整備が求められます。また、たとえば気象データAPIとの連携によって雨が降り出す前に窓を閉めるように通知を行う、他社製のデバイスとシームレスに連携するなど、外部システムとの連携を前提としたソフトウェア設計を行うことが、ビジネスの拡張性につながっていくと考えられます。
試作や評価から量産のステップに移行する際、研究室レベルで作ったプロトタイプが動いたとしても、そのまま製品化できる、というわけではありません。スマート家電開発においては、「PoC(概念実証)」から「量産」に移行するプロセスで大きな壁が存在しているといえます。
スマート家電開発の初期段階においては、アイデアが技術的に実現可能なのか、さらにビジネスとしての価値があるかを検証するための「PoC(Proof of Concept:概念実証)」が行われます。ここでは、汎用の開発ボードや3Dプリンターで作成した簡易的な筐体を使用することによって、最低限のコア機能が想定通りに動作するかという点の確認を行います。
このPoCでは、通信モジュールの応答遅延や意図しない条件においてセンサーの誤作動が発生するなど、机上の設計図のみではわからなかった、実環境ならではの課題を早期に洗い出すことが大切です。
また、PoCで良好な結果が出たとしても、限定された環境や手作業による調整が前提になっているケースもあります。そのため、製品化においては多様な住宅環境や家族構成、通信環境、気温や湿度、設置場所、長期の使用を想定した検証を行うことが必要になります。
PoCをクリアし、量産を見据えた専用基板(EVT:技術検証試作)の段階に進むと、過酷な条件下での厳格なテストが求められます。快適なオフィスや開発環境でのテストだけではなく、Wi-Fiの電波が微弱な環境や、多くのBluetoothが飛び交っているノイズ環境下でも通信が途切れず使用できるか、もし通信が途絶えた場合には自動で再接続処理が行われるなど、通信の安定性についてのテストが行われます。
それと同時に、セキュリティに関するテストも行われます。テストの例としては、サイバー攻撃を想定したペネトレーションテスト(侵入テスト)や、ファームウェアの脆弱性診断を行って第三者による不正アクセスやデバイスの乗っ取りを防ぐためのセキュリティ水準が担保されているか、といった点の検証を行っていきます。
このように、通信の安定性やセキュリティに関する検証を怠った場合、製品の発売後にトラブルが発生し、大規模なリコールなどに発展するリスクがあります。
量産化の段階に移行する際には、プロトタイプと同じような高価な部品や手作業による組み込みプロセスを継続するのはコスト面から考えると非現実的であるといえます。そのため、量産のしやすさを考慮した設計への落とし込みが必要となります。ここでは、長期間安定して調達が可能な電子部品の選定や、自動実装機に対応した基板レイアウトの最適化、そして組み立て工程における人的ミスを防ぐ機構設計が必要になってきます。
さらに、工場出荷時の検品プロセスを自動化するテスト治具の開発、それぞれのデバイスに書き込むMACアドレスや暗号キーに対するセキュアな管理体制など、厳格な品質管理体制(QMS)の構築を行っていくことが、スマート家電の信頼性を担保することにつながっていきます。
スマート家電を開発する上では、ハードウェア、ソフトウェア、クラウド基盤といったように、多岐にわたる専門知識が求められます。自社のみで全ての技術に対応するのは極めて難しいため、開発支援を行っている外部のパートナーをうまく活用することが、スマート家電の開発プロジェクトを成功に繋げる重要なポイントであるといえます。
スマート家電の開発支援を行う企業は、大きく分けて以下のカテゴリに分けられます。それぞれ得意分野や役割が異なるため、まずは自社の課題を洗い出した上で、その課題に合った委託先を選定することが重要です。
| 支援先カテゴリ | 得意分野・役割 |
|---|---|
| デザインハウス・設計会社 | アイデアを具体的なハードウェアの回路設計や筐体の設計に落とし込む。PoCのプロトタイプ製作や、技術的難易度が高い基板の設計を支援 |
| ODM企業 | 製品の企画から量産まで一貫して請け負うことが可能(発注元は自社ブランドとしての販売ができる) |
| EMS企業 | 委託元が用意した設計図面や部品表(BOM)をもとに「製造(量産)」を行う。高品質な量産ラインとスケールメリットを活かした部品調達力が特徴 |
| ソフトウェア・クラウドベンダー | スマート家電専用のスマホアプリ開発やUI/UX設計、クラウドインフラの構築、スマートスピーカー連携用のAPI開発などを請け負う |
スマート家電の開発を進める上では、開発のフェーズによって適切な相談先が変化します。
まず「企画・PoCフェーズ」では、「何を作るのか」「ユーザーにどのような価値を提供するのか」といった点を固めることが必要です。そのため、IoTを専門とするコンサルティング企業や、試作を得意とするデザインハウスなどに相談を行います。また、ソフトウェア面においては、UI/UXデザインやアジャイル開発を得意としている、アプリ開発ベンダーに相談します。
「設計・検証フェーズ」においては、ハードウェアとソフトウェアの連携が本格化するため、システム全体の設計に深い知見を持ったODM企業や、包括的にIoT開発支援を提供する企業との協業が有効であると考えられます。
「量産・保守フェーズ」では、厳しい品質基準を満たせるEMS企業や、自社工場を持っているODM企業に委託を行います。この時、小ロットにも対応ができるなど自由度の高いデバイス量産を行える企業や、導入後の修理対応(コールセンターなど)までトータルで対応が可能な企業を選ぶと非常に効率的であるといえます。
外部の開発支援先に問い合わせを行う場合には、必要な情報を事前に整理しておくと、認識の齟齬がなくなるなどより精度の高いやりとりが可能になります。
| 提供する情報 | 内容 |
|---|---|
| ターゲットユーザーと提供価値 | 誰に向けた製品なのか、どのような体験価値を提供するスマート家電なのかを伝える |
| 必要な機能とネットワーク要件 | Wi-Fi、Bluetooth、スマートスピーカー連携など、どの機能が「必須要件」でどれが「希望要件」なのかを明確にしておく |
| 目標とするコストとロット数 | 想定する販売価格帯、初期ロットの生産数(小ロットの数百台規模または本格的な数万台規模か) |
| 自社のリソースと支援してほしい領域 | 「アプリのUI設計は自社で可能。ハードウェアの通信ノイズ対策と量産設計を依頼したい」といったように自社で対応可能な範囲と委託範囲の明確な切り分けを行っておく |
スマート家電の開発は、単なる「通信できる家電づくり」ではなく、ユーザーが日常生活の中で意識をせずとも恩恵を受けられる「優れたユーザー体験(UX)の設計」が出発点になります。そのため、企画の際には「インターネットに家電を接続して、具体的にどのような価値をユーザーに提供するのか」という点を十分に検討することが重要になってくるとともに、用途に合った通信規格の選定や電波法(技適マーク)への対応、サイバー攻撃を防ぐセキュリティの構築が必要となります。
ハードウェア面においては、ノイズや発熱への対策、量産化を行うための部品調達、アプリやクラウドインフラとの連携といったように、開発を進める中で乗り越えるべきハードルが多数あります。これら全てに関する専門的なノウハウを、自社単独で賄おうとすることは現実的とはいえず、ビジネスのスピードを鈍らせる原因になる可能性も考えられます。
スマート家電開発におけるそれぞれのプロセスをスムーズに進行し、市場へ投入するまでの時間をできるだけ短縮するには、まず「自社の強みと弱み」を洗い出すことが必要になってきます。自社がどこまで対応ができ、どの部分を外部の会社に委託するのかを確認し、実績のあるODM企業やEMS企業、ソフトウェアベンダーなど、「スマート家電の開発支援」を戦略的に活用しながら進めていくことが不可欠です。要件を十分に整理し、信頼できる外部のパートナーと強固な協業体制を築くことが、スマート家電の開発プロジェクトを成功に導く鍵であるといえます。
製品コンセプト開発、試作~量産移行、ディスコン対応と言った、プロジェクトの停滞を引き起こすボトルネックを打破する3社を厳選しました。
※1 参照元:アーサー・ディー・リトル公式(https://www.adlittle.com/jp-ja/about)
※2 参照元:トヨタ公式「2025年 年間(1月-12月)販売・生産・輸出実績」2026年1月29日発表(https://global.toyota/jp/company/profile/production-sales-figures/202510.html)
※3 参照元:【PDF】テクノプロ・デザイン(https://www.technopro.com/it/rec_c/wp/wp-content/themes/wp-templ/assets/img/technoproit_career.pdf)※2024年6月末時点