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センサーデバイス開発を成功させるには?

この記事でわかること
  • センサーデバイス開発で最初に決めるべき「測定要件」と開発の全体の流れ
  • センサー選定・電源・通信・筐体・量産で、試作後の手戻りを生みやすい判断ポイント
  • 開発支援先の種類と、工程ごとの相談先の使い分け

センサーデバイス開発は、センサーの型番を決める前に「何を、どの精度で、どんな環境で測るか」を決めるところから始まります。精度はセンサー単体ではなく、回路・筐体・設置のしかたで決まります。電池寿命は待機中の電流で大きく変わり、無線は技適の扱いを確認する必要があります。さらに、量産では1台ずつの校正や部品の生産終了への備えが欠かせません。工程ごとに必要な専門性が違うため、開発支援は段階に合わせて使い分けると進めやすくなります。

センサーデバイスは、試作機が動いた時点ではまだ半分です。
「狙った精度で、狙った期間、何百台でも同じように動くか」を確かめるまでが開発です。

  • 最初に決めるのは、センサーの型番ではなく測定要件
  • 精度・電池寿命・通信は、筐体や設置環境まで含めて決まる
  • 試作から量産に移るときに、校正・検査・部品調達の壁がある

新規事業でセンサーデバイスを作ることになったものの、社内にハードウェア開発の経験者がいない。そんな状況で動き始める担当者は少なくありません。

センサーの種類や通信方式の概要は、調べればすぐにわかります。難しいのは、それぞれの選択が後の工程にどう響くかを見通すことです。センサーの精度を筐体が台無しにする、電池が想定の数分の一しかもたない、量産の直前に校正の工程が足りないと気づく。こうした問題の多くは、最初の設計判断の段階で防げます。

この記事では、センサーデバイス開発を「測定要件」「センサー選定」「電源」「通信」「筐体」「ファームウェア」「量産」の順に整理し、各段階で判断を誤りやすいポイントを具体的に解説します。最後に、開発支援先の種類と、工程ごとの使い分けを紹介します。

センサーデバイス開発は「どのセンサーを使うか」より先に「何をどう測るか」を決める

センサーデバイス開発の最初の仕事は、センサーを選ぶことではありません。測る対象、必要な精度、測る頻度、使う環境を「測定要件」として言葉と数値にすることです。

「温度を測りたい」だけでは、センサーも電池も通信方式も決まりません。±2℃でよいのか±0.2℃が必要なのか、1秒ごとなのか1時間ごとなのか、屋内なのか直射日光の当たる屋外なのかで、選ぶ部品も設計もまったく変わります。

最初に決める測定要件7項目

次の7項目が決まっていれば、開発会社やセンサーメーカーとの会話がかなり具体的になります。すべてを最初から正確に決める必要はありません。決まっていない項目は、空欄にせず「未定」と書いておくだけで、相手はそこを論点として扱えます。

項目 決める内容の例 決まらないと起きること
測る対象 温度、振動、傾き、圧力、ガス濃度、人の動きなど センサーの方式が決まらない
必要な精度 ±何℃、±何%までの誤差なら事業上問題ないか 過剰に高価なセンサーを選ぶ、または精度不足に後で気づく
測定範囲 最小値と最大値(例:-20〜60℃) 範囲外の値が出る現場で使えない
測定・送信の頻度 何分ごとに測り、何分ごとに送るか 電池寿命と通信方式が決まらない
使用環境 屋内外、温湿度、水・粉じん、振動、設置場所 筐体・防水・電池の選定がやり直しになる
電源 電池か外部電源か、電池なら何年もたせるか 回路設計と通信方式の前提が変わる
データの使い道 誰が、何を判断するためにデータを見るのか 必要な精度や頻度の根拠がなくなる

7項目のうち、最後の「データの使い道」がほかの6項目の根拠になります。たとえば設備の異常の兆候をつかみたいなら、絶対値の精度よりも、同じ条件で測り続けたときに値が安定していることのほうが大事な場合があります。使い道から逆算すると、必要以上の精度を求めずに済みます。

センサー素子から作るのか、既存センサーを組み合わせるのか

センサーの開発には、大きく分けて2つの種類があります。センサー素子そのものを開発するのか、市販のセンサー素子を組み合わせて機器にするのかです。

素子の開発には電子材料や製造技術が必要で、ある程度の事業規模がある会社が担う領域です。一方、機器やモジュールの開発は、既存のセンサー素子を選び、回路基板で信号を処理し、マイコンのプログラム(ファームウェア)を書くことで実現します。受託開発会社の中には、開発の難易度を「検出素子>モジュール>デバイス>機器」の順に整理しているところもあります。

新規事業では、まず既存のセンサーの組み合わせで要件を満たせないかを検討するのが現実的です。市販のセンサーで満たせない精度や形状が必要だとわかった時点で、素子開発や共同研究を検討します。

用途によって追加で必要になる要件(ウェアラブル・屋外・工場)

同じセンサーデバイスでも、使われる場所によって追加で検討すべき要件が変わります。

用途 追加で確認すること
ウェアラブル(身につける機器) 装着のしやすさ、肌に触れる素材の安全性、充電方法。医療機器に該当する場合は、接触部位と接触期間に応じた生物学的安全性評価(ISO 10993-1/JIS T 0993-1)が必要
屋外・インフラ 防水・防塵、直射日光による温度上昇、結露、電池の低温特性、通信エリア
工場・設備 既存設備とのつなぎ方(4〜20mAやRS-485などの有線出力)、周辺機器からのノイズ、振動、設置工事の有無

ウェアラブルで特に注意したいのは、製品の目的をどう打ち出すかです。薬機法では、病気の診断・治療・予防などを目的とする機器を医療機器と定めています。同じ心拍センサーを使っていても、「健康管理の目安」として売るか「病気の兆候を見つける」とうたうかで扱いが変わります。医療機器に該当すれば薬機法に基づく手続きと評価が必要になるため、うたう内容は企画の段階で決めてください。

センサーデバイス開発の流れ|PoCから量産までの工程と目的

センサーデバイス開発は、一般に「PoC(概念実証)→EVT→DVT→PVT→量産」の順で進みます。工程ごとに確かめることが違うので、「今どの工程にいて、何を確かめるための試作なのか」を関係者で共有することが欠かせません。試作の目的があいまいなままだと、評価の基準も決まりません。

PoC・EVT・DVT・PVT・量産で確かめること

工程 確かめること
PoC(概念実証) そもそも測りたいものが測れるか。そのデータに事業上の価値があるか
EVT(技術検証) 自社で設計した回路や構造で、機能と性能が仕様どおりに出るか
DVT(設計検証) 量産に近い部品と作り方で、耐久性・信頼性・環境試験に合格するか
PVT(生産検証) 量産ラインで、同じ品質のものを安定して作れるか
量産 検査・校正を含めて、狙った原価と数量で出荷できるか

期間の感覚をつかむために、Shiftall社が公開しているIoT製品の設計製造スケジュールの例を紹介します。最初の試作(EVT1)に4〜6週間、DVTの段階で金型に投資し、その費用は数百万円、多いと数千万円、製作期間は1〜2か月としています。全体では約1年を見込んでいます。

同じ例では、発注から納品まで20週かかる部品が1〜2点含まれることが多いとも書かれています。量産の日程から逆算すると、こうした長納期の部品は設計が固まりきる前に手配を始めることになります。

期間や費用は製品によって大きく変わるので、この数字はそのまま使える相場ではありません。ただ、「金型に投資した後は設計を大きく変えにくい」という点はどの製品にも共通しています。DVTに入る前に、どこまで仕様を固めておくかが開発全体の費用を左右します。

市販モジュールで動いた試作機が、そのまま製品にならない理由

PoCでは、ArduinoやRaspberry Piなどのマイコンボードと市販のセンサーモジュールを組み合わせて、短期間で試作機を作ることがよくあります。測りたいものが測れるかを確かめるには、とても有効な方法です。

ただし、その試作機をそのまま製品にすることはできません。

  • ボードの消費電力が大きく、電池で長期間動かせない
  • 大きさや形が製品の筐体に収まらない
  • ボードや部品が長期間供給される保証がない
  • 量産時の検査や校正を前提にした設計になっていない
  • 防水・ノイズ・温度変化への対策が入っていない

PoCで確かめたのは「測れるかどうか」です。「製品として成立するか」は、EVT以降で専用の基板と筐体を作って初めて確かめられます。PoCの成功をそのまま事業計画の前提にすると、EVT以降で見つかる課題の分だけ計画が遅れます。

センサーの選び方|データシートで見落としやすいポイント

センサーを選ぶときは、メーカーが公開しているデータシート(仕様書)を読み比べます。データシートの数値は、どんな条件で測った値なのかまで読まないと、実際の現場での精度を見誤ります。

「精度」と「分解能」は別のもの

分解能は「どれだけ細かい単位で値を表示できるか」、精度は「本当の値とどれだけずれているか」です。この2つはよく混同されます。

たとえば、Sensirionの温湿度センサーSHT40は、温度の分解能が0.01℃です。一方、温度の精度は「代表値で±0.2℃」とされています。0.01℃刻みで値が出ても、本当の温度とは0.2℃程度ずれている可能性がある、ということです。

画面に小数点以下2桁まで表示されると精度が高そうに見えますが、判断に使えるのは精度の範囲までです。社内でデータを見る人にも、この違いを伝えておくと誤解を防げます。

精度の数値には前提条件がある

データシートの精度には、多くの場合「代表値(typ)」と「最大値(max)」があり、さらに「どの範囲で成り立つか」という条件が付いています。

SHT40の湿度の精度は、代表値が±1.8%RH、最大値が±3.5%RHです。代表値は25〜75%RHの範囲での値で、温度の代表値±0.2℃も0〜75℃の範囲での値です。つまり、この範囲を外れた環境や、たまたま個体差が大きい部品では、代表値より大きくずれることがあります。

量産品は何百台、何千台と作るので、すべての個体が代表値に収まるわけではありません。製品の仕様として約束する精度は、最大値や、使う温度範囲での値を基準に考えるのが安全です。

温度特性・ドリフト・経年変化を確認する

センサーの値は、周囲の温度や時間の経過によっても変わります。データシートで見るべき項目は次の3つです。

  • 温度特性:周囲の温度が変わると、測定値がどれだけずれるか
  • 長期ドリフト:同じ条件で使い続けたとき、1年あたりどれだけ値がずれていくか
  • 応答時間:環境が変わってから、センサーの値が追いつくまでにかかる時間

たとえばSHT4xシリーズの長期ドリフトは、温度が1年あたり0.04℃未満、湿度が1年あたり0.5%RH未満とされています。5年間使う製品なら、湿度は最大で2.5%RH程度ずれていく計算になります。製品を何年使う想定なのか、途中で校正し直すのかは、ドリフトの値とセットで決めることになります。

出力方式によって必要な回路と部品が変わる

センサーの出力方式によって、周辺に必要な回路が変わります。

アナログ出力のセンサー

  • 微弱な信号を増幅する回路(オペアンプなど)が必要
  • AD変換(アナログ値をデジタル値に変換)の分解能とサンプリング周波数が精度に影響する
  • ノイズ対策や回路の調整に専門知識が要る

デジタル出力のセンサー

  • I2CやSPIなどの規格でマイコンと直接つながる
  • 工場で校正済みの製品も多く、組み込みやすい
  • 設定や読み出しはファームウェアで行う

工場の既存設備につなぐ場合は、機器としての出力方式も決めなければなりません。産業機器では、0〜5Vの電圧出力、4〜20mAの電流出力、RS-485などのシリアル通信がよく使われます。つなぎ先の設備が受け付ける方式は、PoCの段階で確認できます。

電源設計|電池寿命は待機中の電流で決まる

電池で動くセンサーデバイスは、ほとんどの時間を待機(スリープ)状態で過ごします。そのため、測定や送信の瞬間に流れる電流よりも、待機中に流れ続けるわずかな電流が電池寿命を大きく左右します。

電池寿命の計算例

電池寿命は、次の式でおおよそ見積もれます。

電池寿命(時間)= 電池の容量(mAh)÷ 平均電流(mA)

平均電流は、動いている時間と待機している時間の電流を、時間の長さで重み付けして平均したものです。ここでは次の条件で計算してみます(数値は説明のための例です)。

  • 電池の容量:1,000mAh
  • 1時間に1回、2秒間だけ起動して測定・送信する(そのときの電流は20mA)
  • 残りの3,598秒は待機
待機中の電流 平均電流 電池寿命の計算値
10μA 約21μA 約5.4年
100μA 約111μA 約1.0年

起動中の条件はまったく同じでも、待機中の電流が10μAから100μAに増えるだけで、電池寿命は5分の1以下になります。

待機中の電流は、マイコンだけで決まるわけではありません。センサーや電源回路、通信モジュールが待機中にどれだけ電流を消費するかの合計です。データシートのスリープ電流を部品ごとに確認し、試作機では実際に電流を測って、計算と合っているかを確かめます。

送信の頻度も効いてきます。上の例(待機10μA)で送信を1分に1回に変えると、平均電流は約0.68mAに跳ね上がり、電池寿命は約2か月まで縮みます。今度は起動中の電流がほぼすべてを占めるからです。測定要件で決めた頻度が本当に必要か、ここで一度見直す価値があります。

低温・自己放電・電池の種類で寿命は変わる

計算で出した寿命は、あくまで理想的な条件での値です。実際には、電池から取り出せる容量は使い方や環境で変わります。

パナソニックのコイン形リチウム電池CR2032の公称容量は225mAhです。ただし、データシートのグラフを見ると、負荷が重いほど、温度が低いほど、取り出せる容量は少なくなります。-10℃で約2〜3mAの負荷をかけた場合は、120mAh前後しか取り出せません。屋外や冷蔵・冷凍の現場で使うなら、公称容量ではなく、使う温度と負荷での容量で計算し直してください。

電池は使わなくても少しずつ減っていきます(自己放電)。数年単位で動かす製品では、平均電流の計算とは別に、電池のデータシートで保存特性を見ておくと見積もりの精度が上がります。

電源まわりでは、電池寿命以外に次の点も確認が必要です。

  • リチウム電池を海外へ輸送する場合は、UN38.3という輸送試験に適合している必要がある
  • ACアダプターは電気用品安全法の対象で、PSEマークの付いたものを使う必要がある

通信方式の選び方と技適・電波法の注意点

通信方式は、測定要件の「頻度」「使用環境」「電源」と、データを送る先で決まります。どれが優れているかではなく、設置場所と電池寿命の条件に合うかで選びます。無線を使う場合は、電波法のルール(技適)の確認も欠かせません。

BLE・Wi-Fi・LoRaWAN・LTE-M・有線の比較

方式 届く距離(目安) 消費電力 通信料 向いている使い方
BLE(Bluetooth Low Energy) 近距離 小さい かからない ウェアラブル、スマホとの連携
Wi-Fi 建物内 大きい かからない(設置先の回線を使う) 外部電源のある屋内機器、データ量が多い用途
LoRaWAN(920MHz帯) 長距離 小さい 自営網なら回線料金はかからない(ゲートウェイが必要) 広い敷地や屋外で、少量のデータを送る用途
LTE-M 携帯電話網のエリア内 省電力機能で抑えられる かかる(SIMの契約が必要) ゲートウェイなしで単体で広域に送りたい用途
有線(RS-485、4〜20mAなど) 配線の範囲 配線で電源も供給できる かからない 工場の既存設備とつなぐ用途

届く距離は、建物や地形、アンテナの位置で大きく変わります。LPWA(省電力で広い範囲をカバーする通信方式)の通信距離は、資料によって書かれている数値にかなり差があります。カタログの最大値ではなく、実際の設置場所で電波の届き方を試すことをおすすめします。

方式ごとに、設計に響く注意点があります。

  • LoRaWANを含む920MHz帯の無線には、1回に送信できる時間の制限があります(ARIB STD-T108)。LoRaWANでは「1回4秒以内」か「1回400ミリ秒以内で1時間の合計360秒以内」のどちらかの条件で使います。一度に送れるデータ量が小さいので、送るデータの形式から設計します
  • 920MHz帯を使うスマートメーターが多い地域では、他の電波と重ならないように送信を待つ時間が増え、送信が遅れることがあります
  • LTE-Mには、PSMやeDRXと呼ばれる省電力機能があります。PSMは、通信しないあいだ通信部分を電源オフに近い状態にする機能です。電池で動かすなら、この機能を前提に設計します
  • NB-IoTは、国内で提供している通信事業者が限られます。採用する前に、エリアとサービス継続の見通しを事業者に確認してください

認証済みの無線モジュールを使っても確認が必要なこと

日本で無線機器を使うには、電波法の技術基準に適合していることを示す「技適」が必要です。センサーデバイスでは、技適を取得済みの無線モジュールを組み込むのが一般的です。

認証済みのモジュールにアンテナも含めて一切手を加えなければ、製品として改めて認証を取る必要はありません。ただし、次の点に注意が必要です。

  • アンテナを別のものに変えると、工事設計の変更にあたり、認証の申込みが必要になる(簡易な手続きが適用される)
  • 組み込むときにモジュールを改造するなどの変更を加えた場合は、モジュールに付いている技適の表示を取り除かなければならない
  • モジュールの技適マークと同じ表示を、製品の外側にも付けられる(任意)。利用者が外から確認できるので、付けておくと安心

筐体に収めるためにアンテナを小さなものに替えたい、という要望は開発の途中でよく出てきます。アンテナの変更は認証の手続きと費用に直結します。モジュールを選ぶときに、そのモジュールで使えるアンテナの種類まで見ておけば、この手戻りは避けられます。

海外で販売するなら各国の認証が必要になる

日本の技適は、日本国内でしか通用しません。海外で販売する場合は、販売する国や地域ごとに無線の認証が必要です。

EUでは、無線機器指令(RED)により、2025年8月1日からインターネットに接続する無線機器にサイバーセキュリティの要件が加わりました。安全性や電波の基準だけでなく、セキュリティへの適合も示さなければ販売できません。海外展開の可能性があるなら、対応済みのモジュールを選ぶ、セキュリティ機能を最初から設計に入れるなど、早い段階で準備しておくと後の手戻りを減らせます。

筐体と設置環境|防水・結露・ノイズで測定値が狂う

センサーの精度が良くても、筐体に入れた途端に測定値がずれることがあります。温湿度センサーのメーカーであるSensirionも、測定の精度はセンサー単体ではなく、筐体と基板の設計を含めたシステム全体で決まると説明しています。

防水(IP等級)と通気・結露対策を両立する

防水・防塵の性能は、IPコード(JIS C 0920/IEC 60529)で表します。「IP」の後の1桁目が防塵、2桁目が防水の等級です。たとえばIP67は、ほこりが入らない(防塵6)うえに、水面下15cm〜1mに30分間沈めても影響がない(防水7)ことを示します。

ただし、センサーデバイスは完全に密閉すればよいわけではありません。温湿度やガスのように、外の空気に触れないと測れないセンサーがあるからです。また、密閉した筐体の中では、温度変化で内部の圧力が変わったり、中にこもった湿気が結露したりします。

こうした問題には、水やほこりは通さずに空気だけを通す通気フィルター(ベント)が使われます。防水を保ちながら内部の圧力を調整し、結露を抑えられます。ただし、フィルター膜は空気の入れ替わりを遅くするので、湿度などの応答が遅くなる点に注意が必要です。

筐体の形や取り付け方で測定値が変わる

温湿度センサーを例に、筐体と基板の設計で起きやすい問題を整理します。Sensirionの設計ガイドでは、次の4点が重要とされています。

外気に触れさせる
筐体の開口部を大きくし、センサーを外気の近くに置く
こもった空気から隔てる
筐体内の他の部分の空気がセンサーに触れないよう、センサーの区画を仕切る
すき間を小さくする
センサーの周りの空間(デッドボリューム)が大きいと、外の変化に追いつくのが遅くなる
熱源から離す
マイコンや電源回路の熱が、基板の銅配線を伝ってセンサーを温めないようにする

特に見落としやすいのが熱の影響です。同じガイドによると、湿度90%RHの環境で温度が1℃ずれると、湿度の値は5%RHずれます。基板上の部品の熱でセンサーがわずかに温まるだけで、湿度の値が大きく狂うということです。基板にスリットを入れて熱を伝わりにくくする、細い配線でつなぐ、センサーを基板の端に置くといった対策があります。

筐体の素材にも注意が必要です。同じガイドでは、湿気を吸う素材、特にポリアミドを筐体に使わないよう推奨しています。直射日光が当たる場所では、筐体ごと日射を遮る必要もあります。

温湿度センサー以外でも、「センサーが測っているのは、センサーのすぐそばの状態だけ」という点は変わりません。振動なら取り付け方、圧力なら配管とのつなぎ方が測定値に影響しないか、実際の設置状態に近い形で試作機を確かめてください。

ノイズ対策(EMC)は試作段階から確認する

電子機器は、周りの機器にノイズを出さないこと、周りからのノイズで誤動作しないことが求められます。これをEMC(電磁両立性)と呼びます。センサーの信号は微弱でノイズの影響を受けやすく、EMCの問題がそのまま測定値の乱れとして表れます。

日本では、情報技術装置のEMCはVCCIによる業界の自主規制で、法律上の義務ではありません。一方、海外で販売する場合は、各国の規制に適合する必要があります。

EMCの問題は、基板の配線や部品の配置が固まってから見つかると、基板の作り直しが必要になることがあります。本試験の前に、試作機の段階で簡単な測定をしておくと安心です。自治体の公設試験研究機関(公設試)の中には、EMC試験の設備を比較的安い料金で貸し出しているところもあります。

ファームウェアとデータ処理|エッジAIを使うかどうかの判断

センサーデバイスでは、センサーから読み取った値を、マイコンのプログラム(ファームウェア)で処理してから送ります。どこまでを端末の中で処理し、どこからをクラウドに任せるかが、電池寿命・通信料・応答の速さを決めます。

端末で処理するか、クラウドに送るか

生のデータをすべてクラウドに送れば、後からどんな分析もできます。ただし、送るデータが増えるほど、電池の消費と通信料が増えます。特に振動や音、画像のようにデータ量の多いセンサーでは、すべてを送るのは現実的ではありません。

そこで、端末側でデータを処理し、結果だけを送る方法があります。平均値や最大値だけを送る、異常を検知したときだけ送るといった処理です。さらに進んだ方法が、端末の中でAIによる判定まで行う「エッジAI」です。

端末で処理する(エッジAIなど)

  • 通信量を減らせる
  • 通信が切れても判定できる
  • 個人に関わるデータを外に出さずに済む
  • 判定結果をすぐに返せる

クラウドに送って処理する

  • 端末の部品を安く、省電力にできる
  • 判定のしかたを後から変えやすい
  • 生データを蓄積して分析に使える
  • 多数の端末のデータを比べられる

エッジAIを検討するなら、センサーメーカーが公開している開発資料を活用できます。たとえばソニーセミコンダクタソリューションズは2025年8月、AI処理機能を持つイメージセンサー「IMX500」を使った機器の開発向けに、初期設計から量産までの技術資料をまとめて公開しました。あわせて、センサーの制御やAIモデルの管理を支援するソフトウェアもオープンソースで公開しています。

進め方としては、PoCの段階ではまず生データを集めてクラウドで分析し、どんな処理が必要かを見極めることをおすすめします。処理の中身が固まる前に端末側へ組み込むと、判定のしかたを変えるたびに端末の設計まで見直すことになります。

遠隔アップデート(OTA)とセキュリティを最初から設計に入れる

現場に設置した何百台もの端末のファームウェアを、1台ずつ回収して書き換えるのは現実的ではありません。そこで、通信を使ってファームウェアを更新する仕組み(OTA)を最初から設計に入れます。更新の途中で電池が切れたり通信が途切れたりしたときに、元のファームウェアに戻れる作りにしておかないと、現場で端末が動かなくなります。

セキュリティへの対応も年々求められるようになっています。日本では、IoT製品のセキュリティ対策を評価してラベルを付けるJC-STARという制度が、2025年3月から運用されています。申請は任意ですが、自治体や企業に納める製品では、調達の条件として求められる可能性があります。前述のとおり、EUでは無線機器へのセキュリティ要件がすでに義務になっています。

セキュリティ対策は、後から追加しようとすると、マイコンの性能やメモリが足りなくなることがあります。暗号化や更新の機能に必要な性能は、部品を選ぶ段階で見込んでおくのが安全です。

試作から量産へ|校正・検査・部品調達でつまずかないために

試作機が仕様どおりに動いても、量産で同じ品質を出せるとは限りません。センサーデバイスの量産では、1台ごとの個体差をどう吸収するか、どう検査するか、部品をどう確保し続けるかの3つが課題になります。

1台ずつの校正を量産工程に組み込む

センサーには個体差があります。前の章で見たとおり、データシートの精度には代表値と最大値の幅があります。製品として約束する精度がセンサー単体の最大値より厳しい場合は、1台ずつ基準器と比べて補正する「校正」が必要になります。

試作の段階では、エンジニアが手作業で校正できます。しかし、量産では次のことを決めておかないと、生産のスピードとコストが成り立ちません。

  • どの工程で、どんな設備を使って校正するか
  • 1台あたり何分かかるか(生産数と原価に直結する)
  • 補正値をどこに書き込み、どう記録するか
  • 基準器そのものの正しさをどう担保するか

基準器の正しさについては、計量法に基づくJCSSという校正の制度があります。JCSSの校正証明書は、国家計量標準までさかのぼって正しさが確認できること(トレーサビリティ)を示します。取引先から測定値の根拠を求められる製品なら、基準器をJCSSの校正証明書付きでそろえておくと説明がしやすくなります。

検査治具と出荷検査の項目を決める

量産では、完成品が正しく動くかを短時間で確かめる必要があります。そのために使う専用の装置を「検査治具」と呼びます。センサーデバイスでは、たとえば次のような項目を検査します。

  • センサーの値が基準の範囲に入っているか
  • 無線の送受信ができるか
  • 待機中の電流が設計どおりか
  • 防水の性能が確保されているか

検査のしやすさは、基板と筐体の設計で決まります。検査用の端子を基板に設ける、ファームウェアに検査モードを用意するといった工夫は、DVTまでに設計へ入れておくのが原則です。基板の端子は、後から足そうとすると基板の作り直しになります。

部品の生産終了(EOL)に備える

電子部品は、部品メーカーの都合で生産が終わることがあります(EOL)。センサーデバイスは数年単位で売り続けることが多く、販売を続けているあいだに、主要な部品が生産終了になるリスクを抱えています。

EOLは通常、部品メーカーから通知が出され、最後に購入できる期間(ラストタイムバイ)が設けられます。代わりの部品には、同じ基板にそのまま載せられる「ピン互換品」と、機能は同じでも基板の変更が必要な「機能互換品」があります。

設計の段階でできる対策は次のとおりです。

  • 複数のメーカーから手に入る部品(セカンドソースのある部品)を選ぶ
  • 発売から時間がたって生産終了が近い部品を避ける
  • センサーの場合は、交換すると測定値が変わるため、代替品での再評価と再校正の手順を用意しておく

特にセンサーは、同じ種類でもメーカーが違えば特性が変わります。代替品に切り替えるたびに精度の評価をやり直すことになるので、その費用と期間は事業計画の段階から見込んでおくべきです。

センサーデバイスの開発支援先の種類と使い分け

センサーデバイス開発には、回路、ファームウェア、筐体、通信、量産、認証と、幅広い専門性が必要です。しかも工程によって必要な専門性が入れ替わります。いまの工程に何が必要かを見極めて、支援先を組み合わせるのが現実的です。

支援先ごとの得意分野

支援先 得意なこと 注意点
受託開発会社 回路・ファームウェア・筐体の設計、試作、少量量産。センサーの組み合わせに強い会社もある 得意な技術領域や、量産まで対応できるかは会社によって違う
センサーメーカー・商社 センサーの選定、評価キットや設計資料の提供 自社で扱う製品が提案の中心になる
EMS(電子機器の製造受託会社) 基板の実装、組立、検査などの量産 設計のどの段階から関われるかは会社ごとに確認が必要
公設試験研究機関(公設試) 技術相談、依頼試験、試験設備の貸し出し、共同研究 設計や量産そのものを請け負う機関ではない
大学・研究機関 新しいセンサー素子や計測原理の研究、共同研究 製品化までの期間が長くなりやすい
製品開発コンサル 要件の整理、工程全体の計画、工法やメーカーの選定、量産に向けた調整 設計作業そのものは外部の開発会社やメーカーと組んで進める

公設試は、経済産業省の「公設試保有機器・研究者 情報検索システム」で、どこにどんな設備があるかを探せます。試作や試験の費用を抑えたい場合は、JST(科学技術振興機構)のA-STEPのような産学連携の支援や、自治体の補助金も選択肢になります。たとえば大阪市は、AIやIoTを使った新製品の開発を対象に、試作や実証データの取得を支援する補助金を設けています。

工程別に、どの支援先に相談するか

工程 主な相談先 相談する内容
企画・測定要件の整理 製品開発コンサル、受託開発会社 測定要件、目標原価、量産数量、必要な認証の整理
PoC センサーメーカー・商社、受託開発会社、公設試 センサーの候補選び、評価キットでの検証、試験設備の利用
EVT・DVT 受託開発会社、公設試 回路・ファームウェア・筐体の設計、環境試験やEMCの事前測定
PVT・量産 EMS、受託開発会社 検査治具、校正工程、部品調達、生産ラインの立ち上げ

注意したいのは、工程ごとに支援先を替えると、前の工程の判断の理由が引き継がれにくいことです。PoCで決めたセンサーが量産では調達しにくい、試作の筐体が量産の工法に合わない、といった問題が起きやすくなります。工程をまたいで全体を見る役割は、社内か外部のどこかに必ず置いてください。

相談前にまとめておくと話が早い資料

支援先に相談するときに、完璧な資料は必要ありません。次のような情報があれば、相手は具体的な提案をしやすくなります。

準備するもの 役立つ理由
測定要件7項目のメモ センサーや通信方式の候補を絞り込める
設置場所の写真・動画 取り付け方法や、電波・温度・水などの条件を把握できる
PoCで使った機材とデータ 何が確かめられていて、何がまだなのかがわかる
目標原価・販売価格・数量 部品のグレードや量産の方法を選ぶ前提になる
販売する国・地域 必要な認証と無線モジュールの選び方が決まる
決まっていないこと・迷っていること 支援先が先回りして論点を整理できる

こんな状況なら、早めに外部へ相談を

PoCでは測れたが、製品にするときの原価や量産の方法が見えない。開発会社から仕様があいまいだと言われた。通信方式や電池寿命の見積もりに自信がない。こうした状況では、設計が進む前に第三者の視点で要件を整理したほうが、結果として早く進みます。

センサーデバイス開発は、
量産まで見据えた専門家と進めるのが近道

センサーデバイス開発では、試作機が動くかどうかだけでなく、狙った精度を量産で出せるか、校正や検査の工程が原価に収まるか、部品を何年も確保できるかまで見据えて要件を決める必要があります。

トヨタのモノづくり支援サービスでは、製品化確率を上げるための支援として、要件定義の明確化や、メーカーと同時に要件を固める取り組み、QCDの観点からの工法・メーカー提案などを行っています。

  • PoCはできたが、製品化・量産の進め方が見えない
  • 開発会社やメーカーから仕様があいまいだと言われた
  • 量産時の原価や校正・検査の工程が読めない

まとめ:センサーデバイス開発は「測定要件」と「量産」から逆算する

センサーデバイス開発の成否は、センサーの型番選びより前の段階で大きく決まります。何を、どの精度で、どんな環境で、何年測るのかを決め、そこから電源・通信・筐体を設計します。

試作で「測れる」ことを確かめたら、次は「量産で同じ精度を出し続けられるか」を確かめる。この順番を関係者全員が理解していれば、試作のたびに評価の基準がぶれることはありません。