フィジビリティスタディの進め方

フィジビリティスタディとは、新しい事業や製品開発を本格的に進める前に、「本当に実現できるのか」を確認するための調査です。FS、実現可能性調査、事業化調査と呼ばれることもあります。

製品開発では、アイデアそのものが良くても、途中で計画が止まることがあります。たとえば、設計はできても量産に向かない。試作はできても原価が合わない。販売できそうでも、安全規格や調達の条件を満たせない。こうした問題は、開発が進んでから見つかるほど手戻りが大きくなります。

フィジビリティスタディの目的は、リスクをゼロにすることではありません。進めるべきか、条件を見直すべきか、いったん止めるべきかを判断できる状態にすることです。

特に製品開発では、「売れるか」だけでは不十分です。作れるか、量産できるか、採算が合うか、販売後も運用できるかまで見ておく必要があります。

フィジビリティスタディとは?
事業化前に実現可能性を見極める調査

フィジビリティスタディは、新しい事業や製品開発を進める前に、実現可能性を多角的に確認する工程です。

製品開発の場合、見極めるべきなのはアイデアの魅力だけではありません。顧客に必要とされるか、設計や加工が可能か、量産時に品質を維持できるか、原価と販売価格のバランスが取れるかまで確認する必要があります。

この段階で大きなリスクを見つけておけば、試作や本開発に入ってからの手戻りを減らせます。反対に、実現性が曖昧なまま進めると、設計変更、部材の見直し、外注先の再選定、スケジュール遅延が起こりやすくなります。

つまりフィジビリティスタディは、単なる事前調査ではなく、製品化の確度を上げるための最初の意思決定プロセスです。

フィジビリティスタディと
PoCの違い

フィジビリティスタディとよく混同されるのがPoCです。どちらも新しい取り組みを進める前の検証ですが、役割は少し違います。

フィジビリティスタディは、プロジェクトを始める前に実現可能性を調べる工程です。市場調査、技術調査、概算コストの試算、法規制の確認などを通じて、そもそも進める価値があるかを見極めます。

一方、PoCは「実際に試して確かめる」工程です。試作品や簡易的な仕組みを作り、想定した技術やアイデアが本当に機能するかを検証します。

製品開発では、いきなりPoCや試作に進むよりも、まずフィジビリティスタディで大きな前提を確認しておく方が安全です。市場性や原価、量産性に大きな懸念があるまま試作に入ると、あとから方向転換が必要になりやすくなります

ポイント
  • フィジビリティスタディは、プロジェクトを進める前に実現可能性を見極める調査
  • PoCは、技術やアイデアが実際に機能するかを試す検証
  • 製品開発では、フィジビリティスタディで大きなリスクを確認してから、PoCや試作へ進む流れが基本
  • 市場性や採算性に懸念があるままPoCへ進むと、後から手戻りが起きやすい

フィジビリティスタディで
確認すべき4つの要素

フィジビリティスタディで確認すべき4つの要素

フィジビリティスタディでは、主に市場性、技術性、財務性、運用性の4つを確認します。どれか一つだけを見るのではなく、事業として成立するかを立体的に判断することが大切です。

市場性:本当に買われる製品か

まず確認すべきなのは、市場にニーズがあるかです。

どれだけ優れた技術を使っていても、顧客が必要としていなければ事業にはなりません。想定顧客は誰か、どのような課題を抱えているか、既存製品では何が足りないのか、どの価格帯なら受け入れられるのかを調べます。

この段階では、「自社が作りたいもの」ではなく、顧客がお金を払ってでも解決したいことに目を向ける必要があります。

技術性:設計・加工・品質を実現できるか

次に、技術的に実現できるかを確認します。

必要な設計技術、材料、加工方法、組立方法、品質基準を整理し、自社で対応できるのか、外部パートナーが必要なのかを見極めます。

ここで注意したいのは、試作できることと量産できることは別だという点です。1個だけ作るなら成立する構造でも、数百個、数千個と作ると品質が安定しないことがあります。製品開発のフィジビリティスタディでは、初期段階から量産を見据えておくことが重要です。

財務性:採算が合うか

財務性では、開発費、試作費、金型費、材料費、加工費、物流費、販売価格などを整理します。

売上見込みだけでなく、粗利、投資回収期間、損益分岐点も見ておく必要があります。特に製品開発では、量産に入る前に大きな投資が発生することがあります。金型や設備、認証取得にかかる費用を見落とすと、販売開始後に採算が合わなくなることもあります。

作れるが儲からない状態を避けるためにも、早い段階で概算の原価と販売価格をすり合わせておくことが大切です。

運用性:量産・調達・保守まで回せるか

運用性では、製品を継続的に供給できる体制があるかを確認します。

部材を安定して調達できるか、外注先や製造委託先を確保できるか、リードタイムに無理はないか、販売後の不具合対応や保守は可能か。製品は発売して終わりではありません。品質問題が起きたときの対応まで含めて考える必要があります。

市場性や技術性が高くても、調達や運用が不安定だと事業としては続きません。

ポイント
  • 市場性では、「本当に買われる製品か」を確認する
  • 技術性では、「設計・加工・品質を実現できるか」を確認する
  • 財務性では、「開発費や量産費を含めて採算が合うか」を確認する
  • 運用性では、「調達・量産・保守まで継続して回せるか」を確認する
  • 4つの要素を別々に見るのではなく、事業として成立するかを総合的に判断する

製品開発では
「製造可能性」まで確認する

一般的なフィジビリティスタディでは、市場性、技術性、財務性、運用性の4つがよく使われます。ただし、製品開発ではもう一歩踏み込んで、製造可能性まで確認する必要があります。

製造可能性とは、設計した製品を現実の工法で安定して作れるか、量産時に品質とコストを維持できるかを見る考え方です。

たとえば、次のような点を確認します。

  • 量産に向いた構造になっているか
  • 加工や組立に無理がないか
  • 部品点数が多すぎないか
  • 公差や品質基準が厳しすぎないか
  • 材料や部材を安定して調達できるか
  • 目標原価に収まる工法を選べるか
  • 不具合が起きたときに原因を特定しやすいか

ここを見ずに進めると、試作段階では問題がなくても、量産直前になって「コストが合わない」「歩留まりが悪い」「納期が安定しない」といった問題が起こります。

製品開発におけるフィジビリティスタディは、机上の事業性だけを見るものではありません。設計、調達、製造、品質保証までつなげて、製品化できるかを見極める工程です。

フィジビリティスタディの
進め方5ステップ

フィジビリティスタディの進め方5ステップ

フィジビリティスタディは、次の流れで進めると整理しやすくなります。

1. 目的と判断基準を決める

最初に、何を判断するための調査なのかを決めます。

「試作に進むか」「量産化を検討するか」「事業化の優先順位を上げるか」「外部パートナーを探すか」など、目的によって調査すべき内容は変わります。

あわせて、判断基準も決めておきます。たとえば、想定顧客のニーズが確認できること、目標原価に収まる見込みがあること、主要部材の調達先が見つかることなどです。

基準が曖昧なまま調査を始めると、情報は集まっても結論が出せません

2. 市場・顧客・競合を調査する

次に、市場性を確認します。

想定顧客、使用シーン、競合製品、価格帯、代替手段を調べます。可能であれば、顧客候補へのヒアリングも行います。

ここで重要なのは、製品の特徴ではなく、顧客がなぜそれを必要とするのかを確認することです。競合より優れている点だけでなく、顧客が乗り換える理由があるかまで見ておく必要があります。

3. 技術・工法・サプライチェーンを確認する

市場性が見えてきたら、技術面と製造面を確認します。

必要な技術、材料、工法、設備、外注先を整理し、実現できる条件を明確にします。この段階で、加工先や部材メーカー、製造委託先に相談しておくと、机上では見えない制約が見つかりやすくなります。

特に注意したいのは、サプライチェーンです。特定の部材に依存しすぎていないか、代替部材はあるか、リードタイムに無理はないかを確認します。技術的に作れる製品でも、必要な部材が安定して入らなければ量産はできません

4. コスト・収益・リスクを試算する

次に、概算コストと収益性を確認します。

開発費、試作費、金型費、材料費、加工費、組立費、検査費、物流費などをできる範囲で見積もります。そのうえで、想定販売価格、粗利、販売数量、投資回収期間を整理します。

この段階では、精密な数値を出すことよりも、事業として成立しそうかを判断できる粒度で見積もることが大切です。

同時に、主要なリスクも洗い出します。原価が上がる、部材が調達できない、法規制に対応できない、品質が安定しない、販売価格が市場に合わない。こうしたリスクを早めに見える化しておけば、次の打ち手を考えやすくなります。

5. Go / No-Go / 条件付き継続を判断する

最後に、調査結果をもとに次のアクションを決めます。

進める、止める、条件付きで進める。この3つのどれに当てはまるかを判断します。

すべての不安が消えてから進める必要はありません。むしろ新規開発では、完全に確実な状態を待っていると機会を逃すこともあります。大切なのは、リスクを把握したうえで、どこまでなら許容できるかを決めることです。

ポイント
  • 最初に目的と判断基準を決め、何を確認すべきかを明確にする
  • 市場・顧客・競合を調べ、買われる理由があるかを確認する
  • 技術・工法・サプライチェーンを見て、作れるか、量産できるかを判断する
  • コスト・収益・リスクを整理し、事業として成立するかを見極める
  • 最後に、Go、No-Go、条件付き継続のいずれかを判断する

Go / No-Goを判断するための
チェックリスト

フィジビリティスタディの結果は、社内で判断しやすい形に整理しておくと実務で使いやすくなります。

判定 状態 次のアクション
Go 市場性、製造可能性、採算性、調達性に大きな懸念がない PoC、試作、詳細設計へ進む
条件付きGo 一部にリスクはあるが、代替案や対策がある 条件を明確にして限定的に進める
保留 判断材料が不足している 追加調査、見積、ヒアリングを行う
No-Go 採算、技術、法規制、量産性のいずれかに重大な問題がある 企画を中止、または方向転換する

製品開発では、特に次の項目を確認しておきたいところです。

  • 顧客の課題が明確か
  • 既存製品との差別化があるか
  • 量産に向いた設計にできるか
  • 目標原価に収まる見込みがあるか
  • 主要部材を安定して調達できるか
  • 必要な安全規格や法規制に対応できるか
  • 販売後の不具合対応や保守を想定できているか

なお、製品カテゴリによっては、販売前に法規制や安全基準の確認が必要です。経済産業省は、消費生活用製品安全法、電気用品安全法、ガス事業法、液化石油ガス関連法を「製品安全4法」として整理しており、指定製品について技術基準の遵守などを求めています。

規制対象製品を製造・輸入する事業者には、技術基準への適合確認や所定表示などの義務があります。対象製品に該当する可能性がある場合は、企画や設計の初期段階で確認しておくべきです。

トヨタ式モノづくりに学ぶ、
フィジビリティスタディの考え方

製品開発のフィジビリティスタディでは、トヨタ式モノづくりの考え方が参考になります。

トヨタ生産方式は、停滞をなくして流れをつくることを基本とし、「自働化」と「ジャスト・イン・タイム」を柱としています。自働化は異常が起きたときに止め、不良をつくらない考え方。ジャスト・イン・タイムは、必要なものを必要な時に必要な分だけ流す考え方です。

これをフィジビリティスタディに置き換えると、開発の早い段階で異常や無理を見つけ、後工程に持ち越さないという考え方になります。

たとえば、製品仕様が複雑すぎる。部品点数が多い。加工難易度が高い。調達先が限られている。品質検査に手間がかかりすぎる。こうした問題は、量産直前に見つかると大きな手戻りになります。

だからこそ、フィジビリティスタディの段階で「ムダ・ムラ・ムリ」を見つけることが大切です。必要以上の機能を削る、作りにくい構造を見直す、調達リスクの高い部材を避ける。こうした判断は、開発初期ほど効果があります。

トヨタ式の考え方をそのまま製品開発に当てはめるなら、フィジビリティスタディは単なる事前調査ではありません。後工程で不良や手戻りを生まないための、最初の品質づくりです。

ポイント
  • トヨタ式モノづくりの考え方は、製品開発のフィジビリティスタディにも活かせる
  • 自働化の考え方は、開発初期に異常やリスクを見つけ、無理に次工程へ進めないことにつながる
  • ジャスト・イン・タイムの考え方は、必要な仕様・部材・工程に絞り込む判断に役立つ
  • ムダ・ムラ・ムリを早い段階で見つけることで、後工程の手戻りを減らしやすくなる
  • フィジビリティスタディは、品質と量産性を初期段階から作り込むための工程でもある

フィジビリティスタディ報告書に
まとめる項目

フィジビリティスタディの結果は、関係者が同じ前提で判断できるように、報告書として整理しておくとよいでしょう。

製品開発の場合は、次の項目を入れておくと実務で使いやすくなります。

項目 内容
製品アイデアの概要 何を開発するのか、誰のどんな課題を解決するのか
想定顧客・使用シーン 使う人、使われる場面、購入理由
市場・競合 市場規模、競合製品、価格帯、代替手段
要求仕様 必須機能、優先順位、品質条件
技術・工法 設計方法、加工方法、材料、必要設備
製造可能性 量産しやすさ、品質安定性、歩留まりの見込み
調達性 部材、外注先、リードタイム、代替手段
コスト 開発費、試作費、金型費、材料費、量産単価
法規制・安全規格 対象法令、認証、表示義務の有無
リスク 技術、原価、品質、納期、販売面の懸念
判断結果 Go、条件付きGo、保留、No-Go

報告書は、分厚い資料にすることが目的ではありません。重要なのは、次に進むかどうかを判断できることです。

不確定な情報がある場合は、無理に断定せず、「追加確認が必要な項目」として残しておきます。その方が、後工程での認識違いを防ぎやすくなります。

フィジビリティスタディを
外部に相談すべきケース

フィジビリティスタディを外部に相談すべきケース

フィジビリティスタディは社内でも進められます。ただし、製品開発の経験が少ない場合や、量産化まで見据えた判断が難しい場合は、外部の専門家に相談した方がよいケースもあります。

たとえば、次のような場合です。

  • 新製品開発の進め方が社内に定着していない
  • 技術的には作れそうだが、量産時の品質や原価が不安
  • 加工先、部材メーカー、製造委託先の選定が難しい
  • 試作後に手戻りやコスト超過が起きやすい
  • 企画、設計、調達、製造の連携がうまくいっていない
  • 社内の技術シーズを、売れる製品に落とし込みたい

製品開発では、企画だけ、設計だけ、製造だけを見ても判断を誤ることがあります。市場のニーズ、設計の実現性、調達条件、量産時の品質、販売後の対応までつながっているためです。

外部の製品開発コンサルに相談するメリットは、開発の早い段階で抜け漏れを見つけられることです。自社だけでは気づきにくい製造上の制約や、量産化で起こりやすいリスクを事前に確認できます。

まとめ|フィジビリティスタディは、
製品化の確度を上げるための入口

フィジビリティスタディは、製品開発を始める前に実現可能性を見極めるための工程です。

市場性、技術性、財務性、運用性を確認することで、「売れそうだが作れない」「作れるが採算が合わない」「試作はできたが量産できない」といった失敗を防ぎやすくなります。

特に製品開発では、製造可能性まで見ることが重要です。設計、材料、工法、調達、品質、原価を早い段階で確認しておくことで、後工程の手戻りを減らせます。

トヨタ式モノづくりの考え方に通じるのは、問題を後工程に流さないことです。開発初期にムダ・ムラ・ムリを見つけ、必要な対策を打つ。フィジビリティスタディは、そのための実践的なプロセスです。

新しい製品を事業として成立させるには、アイデアの魅力だけでは足りません。作れるか、売れるか、儲かるか、量産できるか。これらを早い段階で見極めることが、製品化の成功確度を高めます。